情欲モーメント











 元親はいつも通り、二人掛けのソファを伸ばした脚で占拠していた。番組が気に入らないのか、頻繁にチャンネルを変える。つまらなそうに爪先が揺れるのを、政宗はカウンターキッチンから見た。シンクにたまった洗い物を片付けながら、暇ならシャワーでも浴びてこいよ、と提案したのは数分前。しかし、元親は気の乗らなそうな返事をしただけ。テレビの画面が一瞬真っ黒に映り音声も途切れ、今度は神妙な面持ちでニュースを読み上げるキャスターが現れた。すぐに消えてしまったが。



 政宗は蛇口をひねる。勢いよく流れていた水が止まった。スポンジの水気を切ると、エプロンを脱ぎ捨てリビングへ向かう。
「わざわざ、ここ座るのかよ。そっち空いてんじゃん」
「おら。さっさとあけてくれ」
 政宗は半ば無理矢理、元親の座るソファに腰を下ろした。不満そうに上半身を起こした隙に顔を寄せ、その唇を舐めてやる。
 瞬時に頬を染めて文句を言おうとしたのか、口が開いたので舌をいれた。ゆっくり歯の裏と上顎をなぞると、ぬめぬめした感触が逃げる。追いかけて甘噛みし、絡め合う内に端から溢れた分を最後に舐め取り、政宗は元親を見下ろして笑んだ。
「離れたら、こんなことできないだろ?」
 分かってるくせに、と言い足すとまた顔が赤くなる。
 シャツをたくし上げて、のぞいた下腹部をゆるゆる撫でながら胸の突起に舌を這わすと、生白い肌と漏れる吐息が熱を帯びた。部屋の湿度は徐々に上がっていく。何も告げず下着に手を滑り込ませると、さすがに拒むように腰を引いたが許さなかった。強めに指を絡めて扱く。
「ぅ…つめ、た……っあ」
 何か紡ごうと口を開きはするが、不明瞭な言葉しか出てこない。
 震えて勃ちあがった元親の先から、垂れた液が水で冷えた政宗の手を生温く濡らした。先を指の腹で弄り擦り上げ、鎖骨から首元にかけて時たま歯をたてると、喉の奥を締めて元親が啼く。
 そのまま動きを止めることなく、政宗はソファを降りた。
「…しっかりその気じゃねぇか。脱げよ」
 答えも待たず、半端に下がっていたジャージをおろす。元親は、背もたれに身を預け抵抗しなかった。見上げると、最高にエロい顔。短くひきつったように繰り返し息を飲む。わざとその合間を狙って奥まで咥えただけで、投げ出されていた足がひくりと跳ねた。吸い上げると舌に元親の匂いがうつって、ぞくぞくする。大腿を引き寄せ、どの体液で濡れたかもわからない指を孔に埋め探ると、いっそう眉間の皺は深くなった。
 ずるぅり。水音を立てながら容赦なく政宗は追い立て続ける。震える手が、後ろ襟を握りしめてきた。
 一際高く細い声を上げ、元親の腰が不自然に揺れる。注ぎ込まれた熱い液を政宗はごくりと飲み込んだ。嚥下しきれなかった余りが顎を伝い落ち、元親の下生えを汚す。見せつけるよう腹に塗りつけると、焦点のずれ始めた右目がそれを映した。虚脱感によりどこか虚ろで湿っていたが、内側では羞恥や快楽で自分を見失い、ぐちゃぐちゃになっているに違いない。
 テレビからは壊れたように笑う声たちが聞こえてくる。けれど、これっぽっちも気にならなかった。
 元親は、政宗の顔を包むように手を添え、自分の吐き出した精を舐めだす。身を乗り出したせいで、埋めたままだった指の擦る場所が変わった。あ、と漏れた吐息が頬を擽る。政宗は胸が痛いくらい高鳴るのを感じた。
 元親の手がするする撫でながらおりてきてシャツの裾を掴み、脱げ、と催促する。無視して指をすすめていると、手首を掴まれ強制的に抜かされた。腹いせに狙って前立腺を引っ掻いていく。白い喉を反らせ、離れるのを咎めるように数度収縮し蠢いた。
「…ぁ、…どうせなら、はだかで抱き合ってくれよ、な」
 そう言って政宗が身につけていた服をひんむき、元親が満足そうに口の辺を舐めまわす。その仕草はあまりに艶めかしい。覆い被さる政宗の隆起する筋肉をなぞり、すり寄せ合った腰の熱さにたまらなく笑んでみせた。
 狭いソファの上、窮屈に身体を畳みながら繋がる。
「あ、あァ、あ」
 きつい粘膜を押し分け進む度、耳元で元親が啼いた。それだけで理性が不鮮明になる。ぐずぐずと政宗を飲み込んだ場所がたてる生々しい音に犯されて、限界まで広げた孔が、ぎゅっ、と締めつけてきた。吐き出したい衝動を堪えて、揺すり上げる。踏ん張っていた元親の足が滲んだ汗で滑り落ちた。
「まっ…まさむ、……ぇ…」
 消え入りそうな声音で呼ぶくせに、見るとひどく愉しそうに顔を歪める。つられて口元が緩んだ。政宗が半開きの唇に舌を差し入れると、苦みに一瞬眉を寄せたが少々乱暴に突き上げてやると、くぐもった甘い息を注ぎ込んでくる。
 頭に靄がかかってきた。凝縮された熱が結合部に集まってくる。政宗は目の前にうかがえた高みに浮かされ、元親の眼帯を剥ぎ取った。閉じられた瞼におとす口づけとは裏腹に、激しく繰り返し穿つ。狂ったように元親は喉を震わせ、切ない悲鳴をあげた。もう互いの限界はちかい。腰を抱き、これ以上ないほど最奥を目指して貫いた。
「ひぃっあ、あああ…!」
 元親は身体をがくがくと痙攣させ、新しくあふれた精が触れあうふたりの腹を汚す。ほぼ同時にからみつく内壁が蠢き、政宗は誘われるまま全てを吐き出した。





 その後も息が整わないうちに、弛緩した身体を慰め合い、散々気が済むまで汚し合った。いつも以上にだるい身体を何とかベッドまで運び、仲良くシーツにくるまる。
 数時間後、政宗が目を覚ますと隣の元親が力なくぱたぱたと暴れていた。どうやら寝返りが打てないらしい。うぅ、うぅ、と蛙が潰されたような呻き声を漏らしている。情けない。
「…色気ねぇな、おい」
 身体の下に手を差し込んで、ぐるりとひっくり返す。
「いだっ…?!」
 向き合わせた顔は顰められている。俺だって痛くないわけないだろ。政宗はそう胸の内でぼやき、元親の腰に手を回す。
「ゴメンナサイまじもう無理ほんと勘弁してクダサイ」
 手で顔を覆っての全面敗北宣言。政宗は、あーぁ、と肩を竦めた。
「昨日はあんなに素直で可愛かったのに、なぁ…?」
 わざとからかうように言葉を選んだが、今回は反応が薄い。いつもなら顔から火が出る勢いで真っ赤になるはずだ。元親はぽかんとした瞳を器用に広げた指の間から覗かせ、そのことなんだけどさ、と切り出した。
「あんま覚えてねぇや、昨日のこと」
 ぽかん。今度は政宗の番だ。
「いや、ヤったことは覚えてるって。うん、ひんむかれた俺、うん?ひんむかれた?」
「…お前、飲んでないだろ」
「飲んでなかったろ」
「上等だ」
 重い腰を無視して、政宗は元親を組み敷く。予測出来なかった動きに、元親がまた苦しげに呻いた。
「…覚えてなかったら、もう一回すりゃあいい話だよな」
 ひぃ、とどこかで怖じ気づいた声も聞こえたような。
 全部気のせいだ、と片付けることにした。
















(2006/04/10)
あだだだだっ!もっとわかりやすいやさしさが欲しい!