15時におあつらえむきな話
前田夫婦が経営する喫茶店には佐助以外、客は誰も居なかった。可愛らしいフリルのついたテーブルクロス、足の細いテーブルとチェア、小綺麗な内装はどれもこの店の雰囲気に合っていて、こぢんまりとしているもののとても心地が良い。
嫌味なほど似合うウェイター姿の慶次が、向かいに座っていた。怠慢だ、と注意しようにもすることがないのなら仕方ない。
カウンター奥の部屋へと下がった夫妻が、仲睦まじく談笑する声が小さく聞こえる。内容までは分からないが、彼らのことだ。何気ない幸せを大切に、ふたりで分け合っているのだろうと思う。
「報われないことを前提に想うなんて、それ、恋なんかじゃないよ」
それほど広くない通路に長い足を伸ばし、浅く腰掛けた慶次がずずっと音を立ててカップの中身を啜った。
「だって考えてごらんよ。相手の一挙手一投足に泣かなくちゃいけなくなる」
「それくらいでいいよ」
「変わらず後ろ向きだね。そんな素振り、見せないくせに」
まるで自分のことのように、慶次は眉根を顰める。円を描いて混じり合っていくミルクから視線を外さず、佐助は暢気に微笑んだ。
「じゃあ何さ。慶次はいつもいつも、この恋は報われる!なんて確信しながら恋してんの?」
「まっさか!俺そんな自信家じゃないよ」
ただ、と慶次が続ける。
「この恋は報われてほしい。いつもそう思ってる」
ふぅん。気のない返事を返して、佐助はティースプーンでひと混ぜし、口に含んだ。
「それで?恋、してんの?」
「もちろん!でも今回のは手強そうだなぁ…」
(2007/11/29)
意外とこの二人の組み合わせも好きかも。