さみしがりと本と虫











 2階にある第二図書室は、ほとんど書庫の代わりとして使われている。年に数回、書籍を入れ替える時期しか、まともな人の出入りは無い。それを良いことに、加えて図書委員の特権もフル活用し、政宗は黴くさい教室で放課後の長い時間を気ままに潰していた。
 苦手もしくは嫌いなものが人よりも多い彼には珍しく、読書は好ましいものだった。
 買い与えられた本はその日の内にすべて目を通し、おおよその内容を教え聞かせることが出来た。耳を傾ける両親は、それは嬉しそうで。後日、また新しい本が贈られるのは決まりとなった。弟が生まれ、政宗もいくらか成長した頃には、帰宅すれば一冊か二冊の本と、次はどんなものが読みたいのか尋ねる紙切れが、リビングのテーブルに置かれるようになった。
 なんでもいい、と書いたのが最後だった。それ以来、自室の本棚に入りきらず隅で積み重ねられていた小山が大きくなることはなかった。





「その本は?」
「売った。要らねぇし」
 最後の見回りだ、と元親が訪ねて来てから数十分経つ。この教室に立ち入ることはほとんど無いらしく、いちいち興味深げにそびえ立つ本棚を見上げ歩き回っていたが、飽きたのか、結局政宗の隣に腰を降ろした。
「もったいねぇな」
「まさか!幼児向けの絵本なんて読まないだろ」
「うーん、どうだろ」
 元親がすぐそばにある、低い本棚の埃を払いながら歯切れ悪く答えた。
 その横顔をちらりと盗み見しながら、政宗はとうに夕暮れが過ぎ、手元の本の文字さえ見えないほど暗くなっていたことに気がつく。
「そろそろ閉める?」
「もっと読みたいなら、それなりに待てる。電気点けようぜ。つか、それだけ無心になって読んでたのは、ナニ?エロ本?」
 人をからかった笑い方で元親はにじり寄ってきた。どれどれ、と覗き込んだその時、不意打ちで柔らかい唇が政宗の米神を掠めていく。どき、と胸が大きな音をたてた。
「聞いたことあるな。何年か前、有名になったやつだ。流行すぎたのは、こっちに来るんだな」
 吐息の温度を直に肌で感じた政宗の思考は、とてつもない勢いで一週間前の夜中に飛ぶ。久しぶりに、元親のアパートへ泊まった日だ。同じ布団で迎えた朝は、すがすがしいと言うには多少の無理があったものの、十分幸せに満ちていた。
 ああ。政宗は崩した自分の下肢を見、天を仰ぐ。
 だってさ、好きな人にならムラムラして悪いってことはないっしょ。いつか耳にした佐助の声が、理性なんてちんけなものを振りかざして固まる背を後押しした。そうだよな、本人を目の前に妄想する必要はないじゃねぇか。
「センセ」
 ほんの少しの罪悪感を抱きながら呼べば、元親は疑いもなく至近距離で顔を向けた。
 その、半開きの口元に勢いをつけて噛みつく。突然のことに驚いた舌が、噛まれないように奥へ逃げたが、すぐ追いかけて丹念に愛撫した。震えるくらいの力で、制服の袖がしわくちゃに握られる。やがて、互いの喉元が汚れてしまいそうな頃、こく、と小さな音がして元親の喉仏が一瞬皮膚の向こうへ消えた。政宗はひとまず、満足して体を離す。
「勃った。…先生も?」
 惚けた様子の元親が言われるがまま視線を落とすと、短く、うっ、と呻くのが聞こえた。政宗は、笑い出したいのを堪えるのに必死だ。
「なんつーことしてくれんだ…学校で抜けってか…」
「おい。それ、ひとりでするつもりなんだろ。俺がいるってのに」
 だって準備も何も、と元親が言い終えるのを待たず、手渡したのはゴム。政宗が持つのは、ワセリンクリーム。用済みになった通学バックは、そこらに投げ捨てられた。



 埋め込んだ自身が、ねっとりとした温かさに包まれる。自分もおそらく、肌を剥けばこんなに熱いのだろうから正直、驚いた。
 脱力してしまいたくなる程の気持ち良さを噛みしめながら、政宗は突き出された腰を掴む指へ力を込める。いつも始めに感じる違和感は、数回抜き挿しすると馴染んで消えた。膝立ちで本棚にしがみつき背を向ける元親は、まとわりつく衣服を気にして視線を落としている。もどかしくて政宗が繋げた身体をより近づければ、強ばる手の甲に額を擦りつけた。
「…んっ、う…ん」
 いくらか苦しそうに見えるが汗のにじむ背に頬擦りすると、元親は噛みしめていた唇を薄く開ける。うっすらと眉を寄せて喘ぐ姿に、ただでさえ危うい政宗が、どくり、と押し広げるように脈打った。
「こっち、向いて」
 いつの間にか、声が余裕を無くして掠れている。
 肩越しに振り返った元親に、温かい手で頬へ触れられるとなけなしの理性は容易く弾け飛んだ。それを取り、伸び上がって濡れた舌を絡ませ合う。
 乱暴に奥を突き、暴くたびに引きつり、結んだ指には力がこもった。
 がり、と微かに聞こえるのは、元親の足がカーペットを掻く音らしい。内側のなにかがさんざめく感触がする。
「あ、あっ…ぁ、い…!」
 元親は全身を震わせ始めた。腕を回し、やさしく胸から撫で下ろして、薄い膜に包まれた下腹の熱を握り込む。ぎゅう、と一際柔らかく締めつけてくる襞と、執拗に擦り合わせた。背を駈けのぼる衝動を吐き出そうと、政宗自身が痙攣する。
 遅れて、元親は声になる手前の息を漏らし、政宗の手の中で緊張した。最後の一滴まで搾るように締め上げられ、間もなく、人肌より熱い温度を感じる。
 ばらばらに膨らんでは萎む、互いの肺と胸。あまりに強い拍動で、視界が少しぶれる。
「…とうとうやっちまったァ…」
 耳まで赤く染めた元親は、泣き出しそうな声音で言った。
 後悔は絶対に先へ立つことがない。先人の言葉は、実に偉大だ。政宗は、一回り大きい身体を抱きしめながら思う。
「お前が味をしめないといいな…」
「どうかな?」
 てっきり、怯えた視線を返すものだと思っていた元親は、数瞬思案するように瞳を揺らした。まるで内緒話をするように、政宗の耳元に唇を寄せる。

 おそらく、今、学校にいるのは俺らふたりだけなんだ。

「…アンタって、マゾっ気あるだろ」
「…そんな性癖いらねぇよ。ノーマルで、いい」
 あつい、とぼそりと言う元親へ、脱げば、と返す。残ったボタンを緩慢な動作で外し、軽く身動いでいたが巧くいかなかったのか、袖を政宗に向かって差し出した。それを引き、その間に元親の腕が抜けるのを見届け、ブレザーを脱ぎ落とす。
「寒くならないうち、済まして、帰ろ」
「続き強請ってる?」
「馬鹿野郎」
 政宗は一瞬、ほんの一瞬だけ、泣きたくなり顔に血が巡るのを感じたが、外の街灯しか光源のないこんな夜の教室では気付かれないだろうと考えた。たとえ気付かれようと、本当はどうでもいいのだが。















(2007/03/15)
宮さんから素敵なシチュを頂きましたー。校内プレイっていいですね。でっへっへ。
リクにお答えすることは出来たでしょうか…?欲を言ってしまえば、もっとなんか、なんか…くっ!とりあえず、こんな感じになりましたがどうぞお納めくだされえええ(スライディング献上/ヤケクソ)煮ても焼いても食っても木の葉で隠すのもお持ち帰りもどうぞご自由に。
ありがとうございました!