スウィートフル・ライフ
がちゃりと鍵が閉まるのを待たず、無遠慮に掴まれていた胸ぐらが引き寄せられ、あっという間に政宗の唇は奪われていた。触れて初めて知ったが、既に元親のそれは幾分しっとりしている。つんと鼻をつくこの教室独特の匂いが気になったが、懸命に貪ろうとする元親の姿が視界を占めると、途端にどうでもよくなった。何度も角度を変えて重ね合い、蠢く舌が絡み合うと程なく濡れそぼち、場違いな水音が漏れだす。
「むうっ」
政宗が身を引こうとすれば、元親は眉を顰め、ゆるく首を振ってそれを拒んだ。呼吸する間すら、惜しいらしい。
食んで撫でて触れたまま、ふたりはおざなりに息をした。
寝転がったコンピュータ実習室の床は硬く、決して心地良くはない。それでも、余裕に顔を歪めていられるのは、元親が自らのしかかり、有り余る熱を湛えた腰を擦りつけてくるからだ。
「どこ行ってたんだよ…」
駄々をこねる子どもの声音で元親は問いかけた。細長い指がまるで別な生きもののように妖しく、政宗の頬を這う。眼前の右目が段々と欲で染まっていく様に喉が鳴った。
どうせなら、びしょ濡れの両目で射抜かれたい。今すぐにでも、その眼帯を剥ぎ取ってしまおうか。
「どこって」
努めて落ち着き、政宗が紡ごうとした言葉はすべて、元親の咥内へと吸い込まれた。動きにこたえて、後頭部へ掌を差し入れ口づけを深くすれば、ふふ、と吐息と大差ない笑みが元親から零れる。
これが昼休み丸々、生徒会の雑務に追われた褒美ならばいつでも大歓迎なのに。
さらさらと指の股をくすぐる、やわらかい髪の毛の感触を楽しみながら、政宗は思った。
唐突だが、時間は午後の授業が始まる5分前にさかのぼる。
教室へと向かっていた政宗の携帯が、唐突に震えだした。ディスプレイには見慣れた名前。早く出ろ、と急かすように、しつこくバイブが振動する。
「もしもし?」
『…なぁ今どこ?』
「なんだ、もう魔王来たのかよ」
次の授業が担任の織田だったことを思い出し、苦い顔で尋ねたが、通話口の向こうから返ってきたのは沈黙だった。
「…?元親?」
『いま、どこにいる?』
訝る政宗に、元親が耳を傾ける気配はない。こういう時は、こちらから折れてやるに限る。政宗はあたりをゆっくりと見回して、中庭前の廊下、と答えた。
『そっか』
元親の言葉に被り、戸の開く音が耳元でしたかと思うと、ほとんど同時に廊下に面した一室の入り口が開く。特徴的な銀髪が覗き、こちらを窺ってくるのは元親、だった。
残念ながら、政宗に発言の機会は与えられない。
歩み寄ってきた元親によって、乱暴な仕草で教室へ引きずり込まれると、無言で求められたからだ。
真っ白な素肌に触れたくて、政宗はワイシャツのボタンへ指をかけた。すべて外し終え、音を立てながら唇が離れると、元親は半身を起こしその場へ脱ぎ捨てた。
匂い立つような色気を含んで、腹の上で口の端だけ持ち上げるその姿に、政宗は目を奪われた。喉が鳴る。それを察したのか、元親がしなだれかかりシャツの隙間から手を差し入れ、政宗へ見せつけるように喉仏へ唇を寄せた。ん、と思わず息を吐くと、胸に当てられた元親の頬が笑みを形作るのが分かる。
ああ、やばい。何もかも持っていかれてしまう。
「なんだ、随分と盛りやがって」
流されてばかりが癪に障って、政宗は揶揄するような言葉を選ぶ。元親の体が強ばった。
「足りねぇのか?いつもあれだけ可愛がってやってんのに?」
伏せられていたため表情は窺えなかったが、元親は弾かれたように背を向け離れていく。政宗は慌てて腕を伸ばし、這って逃げる彼の内履きを掴んだがそれはばたつく足から容易に脱げてしまった。追いかけ、足首を引き寄せると、元親は不恰好に体勢を崩す。
「離せよ!」
「なんで」
背中へ覆い被さり、腕を回して力を込めた。息も詰まるほどの抱擁の合間に、露になった肌を悪戯にまさぐってやれば、元親は悔しげに身を捩る。
「気が乗らないなら、最初からそう言え…!」
唇を噛みしめながら放たれた言葉に、政宗は喉を震わせて答えた。元親の顔が一層ぐしゃりと歪む。代わりに、政宗の内には愛おしさばかりが込み上げてきて、顎へ指を添えると、ゆっくりこちらを向かせた。自然と綻んだ口元へ、唇を寄せる。怯えたような短い吐息が頬をくすぐった。政宗はもう一度、喉の奥から笑いを溢す。
「そう急くなよ。ちゃんと楽しませてやるから」
「もう、いい」
「つれないねぇ。…俺が、欲しくないのか?」
俺は今すぐお前が欲しい。政宗はわざと耳へ吹き込むように囁く。
ぐいと腰を尻のあたりに押しつければ、元親が息を飲むのが分かった。その隙にベルトを緩め、下着へ手を滑り込ませる。
「まっ!」
元親は、慌てて引きずり出そうとしたが、逆に取られ、半ば無理矢理自身の熱へと導かれた。ひくり、内股の筋肉が痙攣する。
焦らすようにゆっくりと扱かれ、愛撫されると、絡んだ互いの手はすぐに汚れてしまった。力なく添えられたままだった元親の指も、段々と揺らめく腰の動きに合わせて意志を持つ。政宗の手が離れても尚、それは快楽を貪ろうとして止まらない。
「ぁあっ…ん…う」
少々乱暴に下着ごと、スラックスを下ろした。ぱたぱた軽い音を立て、元親の手を伝い液が床へ散る。まだ達するには充分でないらしい。
膝を擦り合わせる様に、政宗はにやりと笑んだ。
「お前はこんなんじゃ足りないもんなァ?」
やさしく、確かめるように孔の付近を撫でられただけで、心地よさが全身にくまなく巡る。爪先で意地悪く弄られれば、たまらずか細い悲鳴が上がった。浅い部分を抉るだけだった政宗の指は、時々押し広げるように折り曲げられながら奥を探っていく。ある一点を掠めると、元親の掌に新しい水たまりが出来上がり、内部は収縮を繰り返した。
元親は断続的に甲高い声を上げ首を振り、促す手つきに抗う。
「い、挿れて…っ」
消え入りそうな懇願を政宗は聞き逃さなかった。
慣らすのも草々に、手早く前を寛げ胡座の上に元親を跨らせると、傷つけないよう気遣って挿入する。思ったよりも抵抗はない。柔らかい肉がぎゅうと根本まで締めつけてくる感触に、政宗は身震いした。
元親が首元へ縋ってすすり泣く。
ぐちゃりと響かせて引き出し、押し込めるたび、零れる啼き声が耳を犯した。揺さぶられるまま、腰に巻き付けた元親の足が跳ね続ける。混じり合った場所はさらなる熱を生み、燃えるようだ。体中の至る所で汗が噴き出すのが分かった。
途端、がたりと政宗の背後で大きな音がする。
合わせて、締めつけがきつくなり、息を飲んでなんとか波を堪えた。
振り返ると、がたがた揺れる扉の曇りガラス越しに生徒らしき人影がふたつほど見えた。鍵は閉めてある。開かないことが分かると、抑えられた話し声はあっさり遠ざかっていった。
肩を強ばらせ、政宗の背を掻きむしる勢いで抱き寄せていた元親の体から、ほ、とあからさまに力が抜けた所を狙って突き上げる。汗が何筋も流れる、反った喉のラインがひどく艶めかしく見えた。
まさむね。
吐息につられて視線をやる前に、元親の両手が頬を包み、真っ正面から見つめ合った。啄むだけの甘えたキス。今にも放ってしまいそうなほど膨れた欲の塊を擦りつけて、少し不安げに見えるが、それ以上にふやけた瞳で至近距離から政宗を射る。
「…元親。しっかり足、まわしとけよ」
「っ」
政宗は目の前の身体を抱え直し、繋がりを解かないまま押し倒した。挿入が深くなり、ごぽり、と元親の先から白濁が漏れ出る。そのまま腹で擦り上げてやれば際限なく濡れ、政宗を埋め込んだ孔が痙攣した。
元親は、折りたたまれた自身の膝を抱え、突き上げに合わせ不自由な体勢で腰を揺する。襞が政宗に絡みつき、粘膜の擦れ合う音が耳につく。吐き出す荒い息の感覚が、段々と短く、細くなった。
「政宗…ぇ…!あ、はっ、ああ…ぁ、もっ…!」
もう耐えきれないとばかりに髪を振り乱し、元親は甘い啼き声を上げた。びしゃりと数度に分けて吐き出された体液が、腹の上で粘る感触がする。
一際奥へと誘うように蠢く動きに、政宗もまた、抗うことなく全てを注ぎ込んだ。
この校舎の中で比較的新しいクーラーは、スイッチを付けて間もなく動き出した。脱ぎ捨てたシャツを肩に掛けた政宗は、いつの間にか通風口の真下に移動した元親の隣へ、腰を下ろす。
「涼し〜」
「上着ろよ。風邪引くぞ」
「や。汗乾いてから」
あーあ、早く放課後なんねぇかな。いくらか疲労を滲ませて元親が呟く。
教室に備えられた時計を改めて見やっても、針が進む訳はない。残りの授業を思い出しながら、政宗は放られた元親のシャツをたぐり寄せ、問答無用で持ち主に被せると、眉を顰めて開く彼の唇を自身のそれで塞いだ。眼前で、しぱしぱと小刻みに瞬きが繰り返される。
「good ideaがあるぜ」
「なんだよ」
いくらか期待がこもっているように聞こえるのは、気のせいではないだろう。政宗は、元親の肩を抱き寄せる。
「これから俺ン家来ないか。もちろんサービスするぜ、いろいろと」
元親が視線を泳がせたのは、ほんの一瞬だった。ぽそぽそと消え入りそうな声で、朝夕食事付きで、と承諾する顔は赤く染まっている。
ああ、もちろん。政宗は温度の上がった元親の頬へ、軽く口づけて答えた。
(2007/08/05)
レッツ・座位ー!!(え)のっけからすいません。
墨さんからリク頂きました。ヤっちゃってる感じと聞いて、それなら元親から誘わなければ…!と考えてしまったあたりから間違えたように思います。さっぱりエロくなくてすいません…どうやったら年齢制限ものが書けるのか、ちょっと勉強してきます(すたこら)
大変お待たせしました!ありがとうございましたー!!