anti-mother's day











 心臓が跳ねた勢いで、政宗は飛び起きた。辺りはまだ暗い。
 暴れる脈を落ち着けようと胸元を握りしめても、一向に治まりそうになかった。指先が、震える。冷たいものが身体の中心から広がって、どうしようもなく自分を抱きしめた。見開いたままの片眼に、冷や汗と脂汗とが交じり合い、額から流れおちてきてしみる。
 狂ってしまいそうだ。芯から冷やされて、いずれこの身体は動かなくなるのではないか。頭の端にでも浮かんでしまったら最後、圧倒的な恐怖が波となって駆けめぐる。
 叫べるのなら、喉が裂けて血を吐くほど叫んでやりたい。けれども、ひゅうひゅうと掠れた音しか出てこなかった。
 その上、内の臓物もきりきりと軋む。まるで真っ赤にやけた鉄の棒で掻き回されているようだ。その苦痛に耐えきれず床から這い出し、倒れ込むように障子を開け、草履も履かずに表へ出る。そのまま庭の一角に生えている立派な木へすがりつき、こみ上げてくるものを遠慮も無しにぶちまけた。気味の悪い音が鳴る。
 存外、腹には何も入っていなかった。饐えたにおいに近いのが鼻につき、また戻してしまう。地面に吸い込まれていく胃液を見ながら、こんなに出したのならもう当分吐くこともあるまいなどと幾分すっきりして思った。それでもぜいぜいと息をつきながら、おとなしくなった内臓の代わりに疼き始めた右目へと、手を伸ばす。眼帯の奥でじわじわ脈打っていたのは、次第に痛みへ変わっていった。顔をしかめずにはいられない。
 思わず目を閉じると瞼の裏に浮かんだのは、つい先ほどまで見ていた夢に出てきた、母親、の姿だった。
 あの日のままの姿格好で、あの日と同じく顔を歪ませて、あの日のように拒絶する。慌てて目を開いてしまう自分が滑稽だ。自分の中では、母親、はあの日のまま時間が止まっているらしい。着ている着物も年格好も、最後にあったあの日と全く同じだ。
 いっそう疼く。うっかり眼帯越しにでも爪を立ててしまいそうだ。
 おいおい、愛想を尽かして出て行ったのはそっちだろう、何を今更、恋しがるような素振りを見せやがるんだ。
 こんなに痛むのは、その昔患った病のせいに違いない。狭い視界がうっすらと滲んできた。幹に背中を預けて、ずるずると膝を崩していく。
 あぁもしかしたら。ふと思い当たる、右目は涙を流したいのではないかと。考えてから、鼻で笑ってやった。

「Fuck you」

 病に涙腺は灼き切られてしまったというのに。勝手に恋い焦がれて、出もしない雫を絞りだそうとするとは。
 また笑えてくる。

「…てめぇとFuckなんざ死んでもごめんだ、くそったれが」















(2006/01/09)
千年サイクロン野良の兄貴に捧げた処女作だったりするブツ。
私にBASARAを教え込んだ人。兄貴にはオンオフ共に世話なってますアリガト!

いったい何に恋い焦がれた?