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 政宗のしっとりとした掌が頬に触れた。かさついたこの肌では吸い付く感触もしないだろうに。それでも政宗は壊れ物を扱うように、何度も何度も繰り返し撫でさすっていく。黒々と濡れた瞳には、怪訝そうに眉を顰める自身の姿が映った。
 もう、困り果てた。
 元親は諦めを含んだ溜め息を密かに吐く。



 伊達政宗は未だ若く、聡明な男だった。
 それでいて、その若さに任せた多少の強引さと衝動を持て余していた。証拠に、時折激情を抑えきれず暴発させることがある。
 重ねた年が四十を超えた元親にとって、そんな政宗の年相応の素直さは稀に嫉妬を覚えるほど羨ましいものだった。
 何をどこで違えたのか。二人とも、最早忘れてしまっていた。
 だが、親子ほど年の離れた政宗と元親がまるで溺れるように抱き合い、互いが欠けた年月を埋める如く情を分け与える関係に至ったのは、それほど遠い日のことではない。
 綺麗に欲で歪んだ政宗の顔が寄せられる度、元親の中で冷たい罪悪感がふつりと沸き上がるのだ。
 泣きたくなるなんて、一体どれほどぶりだったことか。
「なぁ。お前ほどの男が、わざわざ俺みたいなジジイとだなんて…言い寄ってくるヤツはたくさんいるんだろ?申し訳たたねぇよ」
「またそれか」
 政宗は、あからさまに不機嫌な顔をした。既に裾を割って入り込む手を握り、真っ直ぐに見据えてくる。
 皺ひとつないその顔が歪むのは忍びない。元親は伸ばした指先で、つり上がる目元へ触れた。大きな獣が甘えるように、政宗は頬をすり寄せてくる。その唇が直に触れると、元親の中で埋もれ眠っていた筈の何かが目を覚まし、殻を突き破ろうとするのだ。押さえつけようにも、勢いのあるそれは言うことを聞いてくれない。だからいつもいつも、何度も何度も誤魔化そうと繰り返す。
「息子にも妻にも先立たれて、なんにものこっていない俺なんか…」
 やさしい政宗を試すため、自分を自分で納得させるため。
「馬鹿野郎、アンタがいるじゃねえか」
 年を取るということは狡賢くなることと同意なのかもしれない。
 俺のことだけ、考えていればいいのに。そう呟く政宗の背へ、ようやっと縋りながら元親は苦笑する。
「これ以上お前のこと考えたら俺ァ死んじまうよ」
 息を詰めて硬直する様がどうにも愛おしくなり、たまには、とわざわざ唇を湿らせてこちらから仕掛けてみることにした。
















(2007/11/29)
「…史実だと究極の年下攻めじゃね?」と某方様とのメッセ中盛り上がったネタ。
すごく、いいよね。