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*学園設定ですがこのシリーズだけ伊達が生徒、元親が教師となっています。
尚、CPは変わらず伊達チカです。
ほんの思いつきだった。アパートから最寄りのスーパーまでは歩いて数分の距離だったし、元親が提案すれば腹を空かせた政宗も気怠そうにだが、頷いた。薄っぺらい財布を尻に突っ込み、連れだって部屋を出たのは十数分前。閉店間際の店内を物色し、新しく値札を貼られた惣菜や缶チューハイ、つまみ等々適当にかごへ入れつつ、レジを済ませ頭上から降ってくる蛍の光を口ずさみながら、一歩外へ出ると、
「…雨だ」
政宗が呟く。満点の星で埋め尽くされていた筈の空は、いつのまにやら真っ黒な雨雲で占拠されていた。ぼとぼと派手な音を立てて、大きな水の粒が地面で弾ける。
傘を買いに戻ろうかと元親が振り返れば、すぐ足下に「傘」のポップが貼られたアルミの空箱。残念、と政宗は肩を竦めてみせた。
土砂降りの雨は容赦なく顔面目がけて降ってきて、首筋を伝いシャツの中まで侵入してくる。避けられず水たまりを蹴れば、ジーンズにも浸透した。がしゃがしゃとやかましく、元親と政宗が各々握ったビニル袋は鳴る。
「すげー、雨、日中あんまに、晴れてた、のに、なぁ?」
「夜から、明日にかけて、天気くずれる、って休み時間、佐助が」
「はやく、言え、よ、伊達このやろ」
「知ら、ね、あいつ、嘘吐きだから、よ」
走りながら喋るのは、辛い。会話らしい会話はここまでで、ようやく目の前に現れたアパートの階段を駆け上ると、元親は扉に鍵をさして捻った。競って部屋に入り、頭を振る。水滴があちこちに飛んだ。
「そこで待ってろ。今、タオル持ってくっから」
ジーンズの裾をたくし上げ、元親がサンダルを脱いであがる。ぺたぺた廊下に足跡を残しながら脱衣所に消えると、自分も頭から被りながら大きめのバスタオルを持って来た。差し出されたのは、たしか、隅で干されていたのをついさっき見かけたような。生乾きのにおいが微かにした。
鬱陶しく残る水滴をすべて丹念に拭いて、初めて政宗はじっと見られていたことに気が付く。元親の視線は、眼帯から離れない。
「…外せよ。濡れただろ」
政宗は首を振った。
「いいんだよ」
「そのままだと気持ち悪ぃだろ」
「いーや」
元親が小さく、ため息を溢す。
「まさか、気にしてる?俺に見られたくない?」
別に、と曖昧にぼやかして一度背を向け、政宗は靴を揃えた。無視するふりをして、まだ濡れたままの髪を適当に撫でつけていると、唐突に元親が漏らす。
「わかった」
そのまま奥へ引っ込み戻ってくると、政宗の脇を抜け、玄関の濡れたサンダルに足を通そうとする。その片手には車のキーが握られていた。
「待てよ!…どこ、行くんだ?」
「どこって、そうだな」
元親は少しの間、考え込んだ。
「友達ン家でも、車の中でも。乾く頃には戻るよ。ドライヤーとか、適当に使えばいいんじゃね?」
そう言って、ドアノブに手をかける。それを阻むように、びん、と逆の手が引っ張られたかと思うと袖が限界まで伸びて、それを掴んだ政宗と数瞬目があった。怯えたように伏せられた顔は、覗うことが出来ない。なんだよ。そう意味を込めて元親が腕を揺らしても、一文字に結ばれた口は返事を返さなかった。
倣って視線を落としていると、突然白く薄いガーゼ状の物体が目の端で飛び、水気を含んだそれは床に投げつけられる。
つられて顔を上げれば、初めて、政宗の両目が揃って元親を射抜いた。
「悪かった、ごめん、謝るよ。だから」
眼帯の下、前髪で隠しきれない皮膚の一部は表しがたい色をしていた。強いて言うならば、青紫。血はまともに通っているのだろうか。古傷のせいでひしゃげて歪み、うすく開いた瞼とおぼしきものの奥には、あるはずの右目が、ない。
がらんどう、だ。
政宗は、元親に縋り付いた。狭い廊下でふたり、崩れ落ちるように座り込む。その間ふたりは、向き合った相手の瞳からそらせないでいた。やがて元親の掌と細長い指が、巧く息の吸えない政宗のこめかみをゆっくりと三度撫でる。おそるおそる、政宗もまた元親の頬を包み込んだ。
瞬きする度に互いの睫毛が絡まる距離。見つめ合ったら口づけしたいと思うのはごく自然の成り行きで、目も閉じずにした。雨に濡れた唇は当然冷たかったけれども、不快とはほど遠い感覚に元親の背筋が軋む。政宗がぶるりと震えた。どちらからとなく、無言で手を引いて立ち上がり、脱衣所でふたり仲良くビショビショの服を洗濯機にぶち込む。
浴槽の蛇口を捻ると風呂場に湯気が立ち、そのまま湯がたまるまで抱き合うことにした。
繋がってみれば、元親が感じたのは痛みや苦しみよりも感動にちかいものだった。温めた手もいつのまにか、温度をなくしている。冷えた政宗の指が埋め込まれた場所は、本来なら他人を受け入れられる筈がない器官だ。そこらにあったソープで無理矢理解し、形を覚えた指に代わって侵入してきた熱いかたまり。
その生々しさにうっかり涙をこぼしてしまいそうになる。不安定に持ち上げられた下半身が揺れると招き入れた熱が擦れて、思わず政宗の腰を爪先で蹴った。
元親を見下ろし、眉間に薄く皺を寄せて笑う。幼さがどうしても抜けきらない政宗の顔が歪んだ。
「つらい?」
「…ぅ、っん…?…」
「あーあ。アンタを、泣かせたいわけじゃないのに」
たまらず元親が細く筋張った首に腕をまわせば、喉を鳴らす。背には硬い風呂の縁の感触、政宗も力一杯それを掴んで必死に荒い息を吐き出していた。果てても果てても年若い政宗は執拗に求める。再び脈打つ気配を感じて、元親は小さく腰を揺すった。
「ふっ…我慢、するなよ…っ」
肩口で政宗が堪えた呻き声を上げる。何度溢れたか分からない精は、繋がる股を汚した。上下する胸を合わせて頬をすり寄せてくる、そのぎこちない仕草に元親は苦笑する。きっと甘え下手なのだろうと思う。髪を梳いてやると、ほぅっ、と湿った短い息が肌を濡らした。
「元親」
声変わりの済んだ低い声が、下肢の甘い疼きを助長させる。時間はかかったが、体中の熱が一点に集まって破裂しそうだ。意図せず収縮を繰り返す孔に収まっている政宗も、まだ物足りないと温度を上げる。
さらに深く、政宗は眉間に皺を刻みながら、ただひとこと。持て余した心情を吐露するように、激しく突き上げながら囁く。
「 あ
い
し
て
く
れっ」
生温かい液に腸が灼かれるのを感じながら元親は無心に、目の前の成長途中で出来上がっていない身体を掻き抱いて、迫り上がってきたものを残らず吐き出した。
それからふたりは窮屈に並んで湯船へ浸かった。その間、政宗は船を漕いで水面とキスを繰り返し、挙げ句溺れかけてしまった。苦しく咳き込んで縮こまった背をさすれば居心地が悪そうに、だがまたがくりと項垂れる。適度に温まったところで浴槽からあがり、濡れた服を着るわけにもいかず裸のまま薄っぺらい万年床に潜り込んだ。
今まさに閉じられようとする政宗の左目が、元親の左目をじっと見つめてくる。ふっ、と細められた。
「生まれつきだよ。左の方が、ちょっと灰色っぽいだろ?別に異常はないんだとさ」
「へぇ…綺麗だ」
なんだかこそばゆい、と正直に答えれば政宗はかるく笑い、絡ませた指の力が弱くなってくる。呼吸が徐々に穏やかで深いものに変わりつつあった。
「明日は、なんか…?」
元親が首を振る。
「おやすみ」
呟けば、直ぐに寝息が聞こえてきた。
今夜は少し冷える。せめて寒さで目覚めないように、投げ出された政宗の足に自分のそれをすり寄せた。考えてみれば、添い寝だなんて何時以来だろう。数度居心地を確かめてまもなく、元親もゆっくりと目を閉じた。
(2006/10/07)
慣れない内は先生がリードするんですよきっと(はいはい)
学校から離れた所にあるボロアパートが、先生の住み処。休み前になると、伊達が入り浸ります(佐助に外泊の口裏合わせをやってもらってる/笑)
小咄については時間軸がとてつもなく揺れ動く予定です。ご了承下さいませ。