先生と俺02


*学園設定ですがこのシリーズだけ伊達が生徒、元親が教師となっています。
 尚、CPは変わらず伊達チカです。









 偶然、国語の授業で図書室を使っていて見つけた。
 放課後のため無人の貸出カウンターの前を通り抜けて、突き当たりのどでかい本棚を窓側に曲がる。目的の場所はすぐそこだ。鼻の奥が擽られるような古本のにおいが強くなる。立ち止まったのは、図鑑が並ぶコーナー。政宗は一通り書籍のタイトルを眺めるとおもむろに一冊取り出す。
 つもっていた埃が舞った。細かい粒子が宙で反射して光る。
 政宗は腰を下ろし、本棚にもたれ掛かりながら図鑑を開いた。日にやけたページに手を掛け、めくってゆく。
 突然、近くの窓ががたがたと揺れた。
 驚いた反射で肩だけでなく、身体全体が大きく一度震える。とりあえず出かけた声を飲み下し、おそるおそるそちらに目をやった。顔が引きつっているのはこの際気にしていられない。
 ほんの数センチ開く。と、ぬっ、と細いが骨張った指が、窓を開け放った。見覚えのある手だ。縁を掴み、ぐっと力がこもる。
「よっ」
 これまた覚えのある声と、色素の薄い髪がそよいで姿を現す。珍しくジャージを着た元親が、腕突っぱね身体を支えて足を掛けながら、政宗に気がついた。不思議そうな顔をする。
「あ?俺間違えたか?ここ第一図書室だよな?」
 言外に政宗がいることに疑問を漂わせ、元親がひらりと着地した。やべ、と小さく漏らし、外靴を脱ぐ。ふたりは並んで座る形になった。どこかほっとしたのを感じさせないよう、政宗は声のトーンに細心の注意を払う。
「アンタ、部活の顧問なんてしてたか?」
「いンや。出張の利家センセの代理」
 いくらかその息は切れていた。
「で、職員会議抜けてきたんだ?」
「俺いなくても今日は別に問題ないし。部活が気になるって言ったら案外簡単に抜けられたぜ。さすがに会議室の前通る気にはなれなかったから、更衣室の窓つたってきたんだけどよ」
「キャリアだけ長いじじばば方のお小言聞いて給料なんて、いい職業じゃねぇか」
 うまいねぇ、元親が肩を揺らした。
「でもな、教師なんかやめとけー。いつまでもガキのまんまか、変なすれ方した大人になるかしかないぞ」
 政宗は鼻にかけて笑う。
「じゃあ、アンタはいつまでもガキだな」
「おうよ。生涯青春!」
「…いい加減、早く大人になれよ」
 いくらかきかせた皮肉も、元親にはさほど効果がない。元からそうできあがっているらしい。さらに政宗が見ている図鑑をのぞき込みながら、なんとも突拍子のないことを言い出す。
「で、お前は将来何になりたいわけ?」
 授業は理路整然とすすめるくせに、普段の会話はそうではない。親しく言葉を交わすようになってから感じたことだ。
 元親独特のリズム。慣れれば嫌いではない。
「鳥、かな」
 膝の上で広げていた図鑑に目を戻し、しばらく悩んで政宗は答える。そのページには一羽の白い鳥が、真っ青な空へ力強く羽ばたいている写真が載っていた。綴じ込みに近いためか、それは色褪せていない。
「鳥になれば、いつだって好きな時好きな場所に飛んでいけるだろう?自由だ」
 元親から見れば羨ましげな表情で、目を細めた政宗が写真を指でなぞる。紙と皮膚が擦れる涼しげな音がした。
「自由、か。いいね」
 だから正直に言ったというのに。
 政宗は瞬時に顔を顰める。さらには、本気かよ、と本気で問われた。
「…アンタ、否定すんの覚えたら?」
「ばかやろ、てめ、否定なんてそうするもんじゃねぇよ。ガキはガキらしくしてろってんだ」
「今時そんな夢見がちのガキなんていねぇよ。冗談もつうじねぇのか、このヤニ中は」
「うわー可愛くねー!」
 そのうち手も出てくる。頬をつねったり、蹴飛ばしたり。放課後の掃除では除ききれなかった埃がお互いの服を汚したが、お構いなしだった。

 転げ落ちた図鑑のページが独りでにめくれる。そのページは、あまりに日にやけてしまっていて、何が書いてあるのかよく分からなかった。















(2006/02/06)
「先生と俺」第二幕。
チカ先生は伊達さんのクラスの担任ではありません。ただ、数学を受け持っていてなんとなく仲良くなったというオイシイ関係。
さらにヘビースモーカー。昔やんちゃやってた時からのが抜けないんですよ。