先生と俺03
*学園設定ですがこのシリーズだけ伊達が生徒、元親が教師となっています。
尚、CPは変わらず伊達チカです。
元親愛用の隠れ家、面談室はB棟3階の端にある。
既に本来の使われ方をされなくなって久しい、と聞く。広い教室ではない。入るとポスターカラーのにおいが微かにして、ン十年前の学祭で使われたテーマポスターたちが額に入れられて、無造作に立てかけられていた。奥には誰が使うのか2人掛け程のソファ。その背中側では、滑りの悪い窓が夕焼けを映している。
元親と政宗は、中心で場所を取っている、特別教室で余った足が長い広めのテーブルにプリントを広げていた。腰掛けた傷物で軋むパイプ椅子は、少し高さが足りない。
答えは千差万別だ。四苦八苦した跡もあれば、丸暗記で乗り切ったようなのもあるし、しっかり過程も書いてまとめられたのもある。問題自体は政宗にとってむずかしくなかった。しかし、思った以上にチェックがはかどらないのは、元親直筆の模擬解答のせいだ。あまりの見づらさに、途中から使わなくなった。
なんとか頼まれた分を終わらせた政宗は、手元のプリントをよせて頬杖をつく。使っていた赤ペンを離すといよいよ手持ち無沙汰で、向かいに座る元親を眺めることにした。
裾が汚れるのを気にして、肘まで捲り上げている。元親の右手は、何十回と鉛筆の跡を擦る間に、薄黒く汚れてしまっていた。それが言外に、要領の悪さを露呈しているようで。
きっと指摘したなら、彼は年甲斐もなくそっぽを向くに違いない。そう考えるだけで、笑いがこみ上げてきた。
「なんだぁ?先生の顔に何かついてるか〜?」
元親は手元から目線を外すことなく、間延びした声で問いかけてくる。
不自然な一呼吸をおいて、政宗から返事が返ってきた。
「…あぁ。ついてるよ」
「なんだ、それならそうと言って」
くれ。元親は顔を上げる。
気がつけば政宗の顔が目の前にあった。
嗅ぎ慣れない匂いが香る。好きな匂いだ。微かにしか感じられないのを残念に思った。
もう離れていく最中らしい、唇は少しだけ湿っている。そう、湿っている。
こんなにも大きなテーブルの向こうから身体を伸ばしたのだから、震えてもしょうがない。そう、震えていた。
もっとよく見ておけば。いや、目は開けていた。夕日がほぼ沈んだ薄闇の中だったから、見えなかったのかも知れない。
最後に、思ったよりも細くて柔らかい髪の毛が頬を掠めていった。くすぐったい。
立ち上がった政宗は伏し目がちで、
「俺の分終わったから帰る」
と、ぐるりと向きを変えた。そのまま入り口へ向かい、ドアに手を掛ける。
「じゃぁ、な」
振り向きざま、元親の目には彼が舌なめずりしている姿が映った。ぴしゃんと閉まる入り口。
政宗が廊下を歩いていくのを、その小さな窓から見送った頃になってようやく、元親の硬直した身体は動き出す。
いつまでも湿っている感触が抜けない唇。触ろうとしたが、赤ペンが邪魔になり慌てて置いた。湿っていない。って、おいおいどうした俺!さすさすと強めに頬を擦ってみた。余計に熱くなった気がする。
あれは俗に言うアレだろ、アレ。当たり前、わかってんよ。混乱しているのが自分でもわかる。
自分がこれだけ純情だったなんて、いや、違うだろ?何が違うのかなんてわからないが、違うだろ?…まず落ち着いたらいい、そうだそうしよう。
言い聞かせて、元親は教室の照明を点けることも忘れテーブルに突っ伏した。
帰路につく政宗の顔も赤く、何もないところで躓いては自分に毒づいていたなんて。途中出くわした、野良猫しか知らないことだ。
(2006/03/11)
「先生と俺」第三幕。急展開。
と言うより、ちょっとだけ歩み寄った、そんな感じで。