きみが好き
*学園設定ですがこのシリーズだけ伊達が生徒、元親が教師となっています。
尚、CPは変わらず伊達チカです。
欲しいものはあまり思いつかない。元親に関するもの以外は。
うちわ代わりに使っている下敷きを翻せば、むわりと湿気を多分に含んだ空気が顔面にぶつかってくる。政宗は眉を顰めた。避暑に来たのにちっとも涼しくない。埃っぽいソファに四肢を投げ出し、顔だけそちらへ向けた。
「なぁ。ここ、クーラーねぇの?」
「誰も使わなくなった部屋を俺が間借りしてるだけだから、そんな贅沢なもん…」
ない!語尾の勢いそのまま、握っていたペンを手放して元親はパイプ椅子の背もたれに寄りかかった。
ぎしり、と今にも壊れてしまいそうな音がする。天井を仰いだせいで露わになった首筋は寛げた襟元と同じく真っ白で、汗が滲んでいた。不思議なもので、二人きりの空間で目にするとそれはそれはたまらなくそそられるのだがこうして校内で向き合う際には性的な匂いなど殆ど感じられない。
あ、と間の抜けた声を上げて唐突に元親が顎を引いた。
「そういえば、お前もう少しで誕生日?」
突拍子もない言葉に政宗はとりあえず、頷く。気がつけば夏休みが間もなく始まる季節だった。7月も残すところ半分。明日は終業式だ。元親と言えば、腕を組んで何かを思案している最中らしい。微かに眉間へ皺が刻まれていた。日直やれ何やれで休み中も登校すると聞いているが、帰省するか迷っていると言っていたから全く休めない訳ではないらしい。ちなみに、しばらく転がり込むという政宗の計画はいち早く見破られており、きちんと宿題や補習をこなすことが条件となっている。学生の本分は勉学、なのだそうだ。時折現れる教師の一面は非常に頑なで一生徒である政宗が突き崩すのは容易でない。
「なに欲しい?」
「Ah?」
「だから、誕生日」
そういうのって本人に悟られないようresearchしといて当日なんでもない風を装って送るもんじゃねぇの?
正直、不満に思わなくもないが、元親にそういったこまやかさを期待するのは無駄だということは既に知っていた。政宗はいくらか考える素振りをし、曖昧に首を傾げる。
人に強請ってまで欲しいものなんて、ない。
思いつかないのか、それともそもそも持ち合わせていないのか。政宗自身にもわからなかった。
「アンタ」
だから、冗談めかして終わらせるつもりだった。
元親は目を丸くして数回瞬きを繰り返した後、ふと頬を緩める。政宗が一番好んでいる表情だ。目の当たりにすると、胸を掻き毟りたくなるような温かい血液が全身を駆け巡るような、なんとも言い表しがたい思いに飲み込まれる。
「馬鹿言うなよ、俺はもうお前のだろ?」
そして、期待はあっさりと政宗の予想を超えて裏切られるのが常だった。
「アンタはまったく…」
政宗は重い腕を持ち上げ顔を覆い隠す。覗き見た元親は困惑しきった様子だ。仕方ない、彼に他意などこれっぽっちもないのだから。一人で舞い上がったり落胆したり。そろそろ慣れたいところだが元親が相手だとどうにも自身を制御することができない。政宗は深く溜め息を吐いた。
どうやっても元親には勝てない。何年か過ぎて、政宗が大人へと近づいたらこんな悩みなどなくなるのだろうか。
「なんだよ。まぁ、そんなに欲しいならラッピングでもして出迎えようか?」
「…いいなそれ」
「本気かよ」
(2011/07/23)
お誕生日に差し上げたものです。伊達くんはベタなのに弱いかなって!